新館長ご挨拶
2017.8.16
康永先生より医学図書館館長就任のご挨拶をいただきました。研究分野についてや医学生時代の話など、いろいろなお話を伺えました。
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医学図書館館長就任のご挨拶と抱負をお願いします。 |
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平成29年7月に医学図書館長を拝命した康永秀生と申します。 図書館は、古今東西のエクリチュールを聚合した知の宝庫です。学ぶ者が集い修道に励む静謐の空間でもあります。 東京大学医学図書館は、歴史と伝統を感じさせる格調高く荘厳なたたずまい、圧倒的大容量の文献・資料、時代の先端を行くアカデミック・コンテンツ、それらいずれをも誇るべき、威風堂々たる、医学図書の殿堂です。近年は、物理的な拠点としての図書「館」という存在を超えて、時と場所を選ばず利用できる、サイバースペースに存在する巨大な「ライブラリー」の機能をも充実させています。 しかし、東京大学医学図書館の良さは、もっと他にもあります。そこに集う人々に優しく寄り添い、手助けをし、彼らを育てる図書館。人々が様々な思いを寄せ、人々の心に刻まれる図書館。私は、東京大学医学部図書館がそのような図書館であり続けるために、微力を尽くす所存です。 |
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学生時代、先生にとって医学図書館はどんなところでしたか? |
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医学部学生の頃、私は苦学生でした。学費や生活費を稼ぐためのアルバイトと、医師になるための学業を両立させるために、必死でした。当時の私にとって、1冊数万円の医学書を買うことは、まさに身を削るような思い。 そんな私に、医学図書館は優しく寄り添ってくれました。医図書に行けば、買えない本も置いてある。「医図書があるから大丈夫」―いつも医図書が私を勇気づけてくれました。私は、医図書の静かな空間で、医学書を貪るように読み、必死でノートを取りました。 医図書は、私を快く迎え入れてくれる、親しい友人のような存在。もの言わずして教え諭す、父親のような存在。いつも私の心に、医図書がありました。 私が医学系研究科の大学院生のころ、ある薬害をテーマにした論文を書くために、1970年代まで遡って、膨大な文献・資料を渉猟しました。そのほとんどは医図書にあったのです。精魂込めて書き上げた論文は、ランセット誌に掲載されました(Lancet 2007;370:2063-7)。 医学系研究科の教員になって以降もずっと、医図書にはお世話になっています。「医図書があるから大丈夫」―私が今あるのは、医図書のおかげといっても過言ではありません。 |
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先生の研究分野についてご紹介ください。 |
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私の主な研究分野は、臨床疫学(clinical epidemiology)です。臨床疫学は、科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine, EBM)の基盤となる学問です。多くの患者さんたちのデータを収集して、疾患の分布や患者の特性を調べたり、治療の効果を判定したり、予後の予測を行うことなどを通じて、科学的根拠に基づくベストな診療の選択を目指す学問です。 臨床医学は、個々の患者に現在ある診療手段を適用して、患者の臨床上の問題を解決しようとする学問です。疫学は、人間集団における疾病のリスク、要因への曝露と疾患の発生の因果関係などについて研究する科学です。 臨床疫学は、臨床医学と疫学を融合した学問です。臨床疫学は、臨床をテーマにしつつ、疫学や統計学の手法を用いて、患者集団という枠組みの中で個々の患者の診療を考えます。 |
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医学生に学術書以外で薦めたい本はありますか? |
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必ずしもお薦めというわけではありませんが、個人的には、医学生の頃、戦争を題材にした小説をよく読みました。トルストイの「戦争と平和」を筆頭に、海外文学にも戦争小説がたくさんあります。日本文学にも、大岡昇平の「野火」、井伏鱒二の「黒い雨」、浅田次郎の「終わらざる夏」などの名作があります。戦争の悲惨さ・理不尽さだけでなく、命の尊さを教えてくれます。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 先生お薦めの本に、学内の所蔵へリンクをはっています。リンク先以外でも、 全集に収載されていたりします。上手く見つからない場合は図書館職員にお 尋ねください。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - |
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どんな少年時代を過ごされましたか?その頃なりたかった職業は何ですか? |
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小中学生時代は、文学少年でした。小学生の頃に夏目漱石の小説を夢中で読みました。中学生の頃、ドストエフスキーの「罪と罰」を読んで深く考えさせられた思い出があります。「カラマーゾフの兄弟」は難解でしたが、何とか読了しました。哲学の本にもトライしましたが、どれも難解でしたね。ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」を中三のときにトライしましたが、挫折しました。高校生になると自然科学に興味がわいて、高校の図書室にあった「ブルーバックス」を次から次に読みました。思索ばかりの哲学よりも、実験・観察を重視する科学の方が、肌に合っているように感じたものです。医学に強い興味を抱いたのもその頃です。
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最近こだわっていること、はまっているものがあったら教えてください。 |
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(たまにしかやりませんが)ぱらぱらチャーハンづくりにこだわっています。既存のレシピにとらわれず、IHコンロでぱらぱらチャーハンを作る最適の条件や手法を、実験と観察によって明らかにすることに、はまっていると言えばはまっています。いまだ、理想のぱらぱらチャーハンを作りあげるには至っておりませんが。 |
「医図書があるから大丈夫」― この言葉を励みとし、スタッフ一同、より良い医学
図書館を目指して頑張っていきたいと思います。
康永先生、どうぞよろしくお願い致します。